「週4回のスクールに加え、週末はプライベートレッスン。空いた時間は壁打ち。なのに、なぜ週2回のあの子に負けるの?」
もしあなたが今、このような疑問を抱いているのなら、この記事はあなたのためのものです。 親として、子供のために時間とお金を惜しまず投資し、送迎に明け暮れる日々。しかし、結果が伴わない。これほど苦しいことはありません。
「もっと練習させなきゃ」とさらにコマ数を増やそうとしていませんか? ちょっと待ってください。その「プラスオン」が、実はお子様の上達を止めている最大の原因だとしたらどうしますか?
この記事では、多くの真面目な親子が陥る「練習量の罠(オーバーワークと思考停止)」について解説します。 なぜ、頑張れば頑張るほど勝てなくなるのか。そのメカニズムと、本当に必要な「質の高い練習」への転換方法をお伝えします。
恐ろしい「練習のゾンビ化」現象
練習量を増やした子供に最も起きやすいのが、コート上での「思考停止(オートパイロット)」です。
1. 「こなす」ことが目的になっている
学校から帰ってすぐにテニス。土日も朝から晩までテニス。 過密スケジュールの中で生きる子供の脳は、無意識のうちに「省エネモード」に切り替わります。 「どう打てば決まるか?」と考えることよりも、「どうすれば怒られずに、この2時間をやり過ごせるか?」を優先するようになります。
症状
・コーチのアドバイスに「ハイ」と即答するが、内容は聞いていない。
・ミスをしても悔しがらず、淡々と次のボールを待つ。
・球出し練習は上手いが、ラリーになると単調。
これは練習ではなく、「作業」です。作業を何万回繰り返しても、変化への対応力が求められるテニスの試合では勝てません。何も考えずに練習に取り組んでいたら、上達スピードは遅いです。それなら、週2でしっかりとコーチの話しを聞き、自分のプレーに取り入れトライ&エラーを繰り返し行える子供の方が、上達スピードは遥かに上です。
2. 「悪い癖」を固めるための練習
もし、フォームやフットワークに間違いがある状態で練習量を増やしたらどうなるでしょうか? 答えはシンプル。「間違った動き」が体で覚えてしまいます。
- 上達しない理由: 正しい100球は上達を生みますが、間違った1000球は「矯正不可能な悪い癖」を脳と筋肉に刻み込みます。量を増やす前に、まず「正しい動き」ができているかのチェックが必要です。間違えたフォームを直すにはかなりの時間を要しますので、ただ練習量を増やすだけではいけません。
疲労という「見えないブレーキ」
「子供は回復が早いから大丈夫」と思っていませんか? それは大きな間違いです。
1. 脳の疲労と判断力の低下
テニスは、コンマ数秒で「相手の位置」「ボールの回転」「風向き」「自分の体勢」を計算し、最適解を出すスポーツです。 肉体的な疲れ以上に、「決断疲れ(Decision Fatigue)」が大敵です。 脳が疲れている子は、リスクを冒して攻める判断ができず、安易なコースに打ってカウンターを食らいます。
2. 怪我のリスクと「かばう動き」
成長期の体にとって、過度な反復練習は関節への毒です。 痛みがあっても「休みたくない(親に言えない)」と無理をすると、子供は無意識に痛い箇所をかばうフォームになります。 これが変な癖の正体であり、一度ついた「痛みを避けるフォーム」は、大人になってもなかなか抜けません。
なぜ「週2回の子」が強いのか? 〜密度の魔法〜
練習量が少ないのにどんどん上達する子がいます。彼らと、伸び悩む子の違いは「1球への渇望感」です。
テニスが好きだけど、練習環境が整っていない子は、1球への執着心はとても強いです。それとは反対に、週に何度も練習している子供は、打てる環境が当たり前になっているので、どうしても1球に対する意識が低くなりがちです。
1. 練習の「希少価値」が違う
週2回しかテニスができない子は、「この1時間を無駄にしたくない!」「もっと打ちたい!」という強い飢えを持っています。 この「高い集中力」こそが、脳の学習効率を最大化します。 一方、毎日テニスがある子は「今日ダメでも明日がある」と考え、1球の重みが希薄になります。
2. 「意図的練習(Deliberate Practice)」ができているか
上達する子は、ただ打つのではなく、常に「実験」をしています。 「さっきはアウトしたから、次はもう少し回転をかけてみよう」 「相手が下がっているから、前に落としてみよう」 この「仮説→実行→修正」のサイクルを回している時間だけが、人を上達させます。 何も考えずに1000球打つより、考え抜いて打つ50球の方が、遥かに価値があるのです。
自分で考えて練習することにより、感覚、体で覚えていくので上達スピードは格段に違います。

親ができる「勇気ある減量」
ここで、親御さんに提案したい解決策があります。それは「練習を減らす」という勇気です。
特に練習量が多いご家庭で、子供が練習の時に集中力がなかったり、やる気がない時などは、当たり前にテニスができる環境を一度見直してみるのも一つかもしれません。
1. 「テニスをしない日」を作る
週に最低1日、できれば2日は「ラケットを握らない日」を作ってください。 そして、その日はテニスの話をせず、別の遊びや勉強に没頭させてください。 脳と体をリセットすることで、「テニスがしたい!」という意欲(渇望感)を回復させます。
私の長男は週に何日もテニスをしているわけではないですが、テニスが大好きなので、暇さえあれば「テニスしたい」と言います。これこそが、テニスのやる気に繋がっていくのではないかと思っています。
2. 練習後の「振り返り」を変える
「今日は何時間やったか」ではなく、「今日は何ができるようになったか」を確認してください。
・NGな問いかけ:「今日はたくさん打ててよかったね」(量への評価)
・OKな問いかけ:「今日はどんなテーマで練習した?」「サーブのトス、工夫してたね」(質と工夫への評価)
3. 「見守る」という特訓
子供が練習中にボーッとしていても、すぐに怒鳴り込んではいけません。 あとで冷静に、「今日は少し集中できていないように見えたけど、体調はどう?」と聞いてみてください。 子供自身に「今のままじゃダメだ」と気づかせることが重要です。親が管理しすぎると、子供は永遠に「やらされる練習」から卒業できません。
フィジカルと「目の機能」の未発達
技術練習以前の問題として、体の準備ができていないケースも多々あります。
1. コーディネーション能力の欠如
ラケットを振る練習ばかりして、ボールを投げる、捕る、蹴るといった基本的な運動能力(コーディネーション)が育っていない子がいます。 テニスは「ボールとの距離感」が全てです。テニスの練習時間を少し削ってでも、サッカーやドッジボール、鬼ごっこなど、様々な動きを取り入れるほうが、結果的にテニスの上達を早めます。
2. ビジョントレーニングの必要性
「ボールをよく見ろ」と言っても、見えていない(眼球運動がスムーズでない)子がいます。 動体視力や深視力は、練習量では補えません。ボールとの距離感が合わない場合は、技術ではなく「目」の機能を疑い、専門的なトレーニングや遊びを取り入れることも検討してください。
努力の方向修正を恐れないで
「練習量を減らしたら、ライバルに置いていかれる」 その恐怖は痛いほど分かります。しかし、今のまま練習量を増やしても、得られるのは「疲労」と「テニス嫌い」だけかもしれません。
上達の方程式は、「練習時間」×「集中力」×「正しい方法」です。 時間が多くても、集中力がゼロなら答えはゼロです。
勇気を持って休ませてください。 勇気を持って、子供に考えさせてください。
「今日はテニスに行きたくてたまらない!」 お子様が目を輝かせてそう言いながらコートに向かう姿こそが、上達への最短ルートです。
親御さんの役割は、アクセルを踏み続けることではなく、適切なタイミングで「給油(休息と動機づけ)」をしてあげることです。 急がば回れ。質を高めるための「戦略的撤退(休息)」を、今日から始めてみませんか?
